イベントレポート
神山町でアイドルをつくる
濱野
坂東さんの話を聞いていると「神山町には何かあるのかもしれない」という感じが漂ってくるというか、つくりません? PIP神山町支部(笑)。
坂東
アイドルはいま女の子たちの憧れになっていると思うんですよ。なので地方でアイドル教室をやるとすごい盛り上がるんじゃないかと。
濱野
地域に若い女性がいないという話もありましたし、神山町には劇場もあるということだし。たとえば「神山町グループ募集!」みたいな告知を出して、条件は「神山町に住めること」とすれば絶対に関西圏から集まりますよ。それで空き家に住んでもらう。いけると思うんですけど、ダメですか?
坂東
でもやっぱり地方発のアイドルって、みんな東京をめざす傾向がまだあると思うんですよね。
濱野
だから神山町の場合はIターン型ということで。むしろ東京からアイドルになりたい娘が行ってもいいと思うんです。
アイドルとして生きることのメリット
濱野
大企業入れば安泰というキャリアパスがなくなった以上、みんなフリーランスに近いような生き方をしていかざるを得ない。その時にアイドルはすごく武器になると思います。なんだかんだでファンができる。職種や地域によらずファンがいて、アイドル辞めてもtwitterなどSNSでファンとつながっていれば困ったら助けてくれるかもしれない。単純にキャリアとしてアイドルはいいと思っています。名前を売るというごく普通の意味でコストパフォーマンスが高い。
松島
逆にアイドルというコンテンツに対してリスクを感じていることはないですか?
濱野
何もないです。地下アイドルを経営しても莫大に稼げたりはしないわけです。大人が3−4人いるような芸能事務所の人件費をまかなおうと思ったら無理に決まっているんですけど、女の子ひとりが自活するくらいなら全然いける。うちはまだ投資段階というか、衣装つくったり曲つくったりしないといけないので全部投資にまわしていますけど、一定量のコンテンツができれば自活は可能。バイト兼アイドルで普通のバイトよりは豊かな生活が実現できるはずです。
なぜかというと、アイドルは初期投資がほとんどかからない。衣装や曲は必要なんですけど、うちでは衣装はポロシャツだけでスカートは自前、曲はカバーしかやってなかった。これはケチってるわけではなく、1,000円でもアイドルになれるってことを実証したかったからで、実際になれたし、ファンもついた。だから元手が必要ないし在庫もない。人さえいればできるからビジネスの観点から言えば旨味しかない。
アイドルの娘たちのリスクでいうと、たしかにテレビとか出はじめるとストーカー問題とかありますけど、それも要するにすごい売れることで確率的に生まれる何かでしかないから、それ言い出したらキリがないかなと。もちろん、そういうことが起らないようなマネジメントする必要はあります。
———質疑応答
質問者1
地方でアイドルを立ち上げるときに、移住が可能かどうかなど、募集条件の可能性についてもう少し詳しくうかがいたいです。
濱野
たとえばPIP神山町の場合、「神山町で結婚し子供を育てること」を目標としたとすると、オタクもよろこんで移住してきます。アイドルとつながりたいという下世話な欲望(オタク用語でワンチャン)ですが、街のためにつながるなら全然悪いことじゃない。そういう企画にするとオタクもファンも盛り上がる。
坂東
実際、神山町の場合は婚活はとくに推進していないんですよ。でも神山塾という、仕事がない若者を半年間神山に住み込みで職業訓練をする取り組みがあって、これまで77人入ってきたんですけど、そのうち半分は移住者になりました。そして9組カップルができました。謳っていないけど婚活的な効果もあるんですね。サテライトオフィスを構えた50代の移住者の方も、神山町で30歳の彼女をつくりました。人が集まれば自然とそういう関係性が生まれる。
濱野
本当にそうですよ。いま日本では20代30代男性の半分くらいは異性とつき合ったことがないというわけのわからない統計が出ていて、そんな社会がまともに運営できるわけがない。ぼくも社会学者なので恋愛や結婚、つまり「ロマンチック・イデオロギー」の問題は常々考えますが、どう考えても今の日本で恋愛して結婚することのコスパが良いとは思えない。そこで普通の社会学者は税制をちゃんとしろとか、そういう話しかしないんですけど、一回みんなアイドルやオタクになってワンチャンを目指して結婚すればいいんじゃないかと思います。地方創生といってお金を落とすだけでは何の意味もない。

質問者3
アイドルとしてセカンドキャリアについて質問です。具体的にどのような職業に可能性があると濱野さんはお考えでしょうか?
濱野
人前に出るような仕事は明らかに有利ですよね。元アイドルがやってるクリーニング屋や花屋とか。僕が狙い目だと密かに考えているのは政治家と介護士です。政治家だったら壇上でしゃべって握手するというのは何よりも求められる才能ですし。ファンミーティングなんかは自治会のようなものなので、そのまま政治家になって町のことを考えれば良い。古い町が残っているような地域以外は自治会的なものは崩壊しているし、コミュニティが新たに形成されることは難しいので、アイドルの求心力があった方がむしろまっとうに地方自治も機能していくだろうと思います。
それから介護士。介護も報酬を切られて大変だという話もありますけど、元アイドルで歌って踊れて介護も優しい、ということになれば絶対流行ります。いま60代のファンは20年後には介護が必要なになるので、自分の推しに介護にきてもらうというのは絶対受けると思います。
冗談みたいな話ですが、介護しながらその自治体に立候補したアイドルに投票してもらえませんか、みたいな感じで介護と政治の両取りをけっこう真面目に考えています。20-30年後に日本はだいぶ崩壊しているんだけど、PIP一派だけ食いつないでいるという世界を切り開きたい。

質問者4
よく女性アイドルにはまる女性ファンは多いが、男性アイドルにはまる男性ファンはいないと言われますが、社会構造とアイドルについて論じるときに男性アイドルについて語られることは少ないと思います。濱野さんは男性アイドルについてどのようにお考えですか?
濱野
僕は男性アイドルも見に行ったことあるんですよ。それについて文章も書きましたが、レスをもらった時はすごく気持ちよかったです。男性アイドルだからダメということはなかった。男性の方が体のキレがあるからいいダンスするなと思いました。
実は男性アイドルをつくろうという妄想もあります。アイドルオタクのイケメンを集めて男性アイドルグループをつくるという計画を一度考えたことがあります。そうすれば、彼らはもともとレスをわかっているはずなので、すぐに対応できる。聞いた話だとジャニーズの子はレスとか恥ずかしくてしないらしいんですよ。だったらアイドルオタクの男性はすぐにトップアイドルになれるではないかと思ったんですけど、たぶんこれはすぐに女性ファンに手を出して問題をおこすのでダメだということになりました(笑)。
一般論として、これまでの日本社会では男性の方が収入が大きいので、男性のファンが若い女性のアイドルにお金を投じるという構図がどうしてもできやすいのは事実ですね。これは日本社会が男女平等を実現できるかにも関わってくる問題です。

質問者5
若い女の子を相手に組織をマネジメントしていくときに気をつけていることはありますか?プロデューサーとして考えていることがあれば教えて下さい。
濱野
最初気をつけたことは、ユニットに切ることでした。22人いたので7人ずつに分けて、年齢層を散らして自然とリーダーが生まれそうな状態にし、かつ3チームもなんとなくキャラクター付けをして、まずはチーム内で団結を生むようなことを考えていました。いきなり20人で仲良くなれというのはかなり難しい。ピリピリする娘もいるので、そうならないようにあの手この手で気をつけました。
全員平等というのは絶対無理で、どうしても不均衡がでてしまう。でも逆にそれはいいと思っています。勝負の世界なのでそれはしょうがないですよね。僕はあえて序列がはっきりわかるようにして、細かくモチベーション設定を設けるということは心がけています。
ぼくはあまりマッチョイズムは好きじゃなくて、「武道館いくんだからこのCD一万枚売ろうぜ」みたいなことは自分がやりたくない。気楽に「あれ、なんか売れてきちゃったね」という状況を目指しています。
松島
濱野さんらしい設計方法だと思います。インフラをつくってアーキテクチャをつくれば、あとは回っていくというオートポイエティックな話なので。
濱野
そうですね、将来的にはPIPの曲を全部ネットに上げてみんな勝手にPIPになってね、ということをやりたい。公認はしないけど準PIPみたいなのができて、対バンしてよかったら認めるという仕組みで。


大島
長時間にわたってどうもありがとうございました。今日は結成間もないアイドルグループPIPのみなさんが、特別にAプロジェクトのシンポジウムに来てくださり、元気あふれる歌と踊りを披露してくれました。はじめてご覧になった方は驚かれたかもしれませんが、このあふれるパワーは今とても大切なことのように思います。ひきこもりや不登校の若者が増えつづける中で、つながりをもつことや自己主張できるようになることは生きる希望となります。
また若手建築家も負けてはいませんでした。都市でスターになれなくても、地方でその町に根づいて人々を元気にする仕事をしている。新しい時代に向かって新しい生き方を見つけてそれぞれ頑張っている様子がとても新鮮に映りました。
ミサワホームではこのような実験的なシンポジウムをやりながら、新しい試みを広めていきたいと思います。
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