イベントレポート
■講座趣旨:

いまや、"アイドル"という言葉はアベノミクスよりも強靭な経済的な効果をもたらすキーワードとなっている。 日本中が空き家が増え続ける中で、アイドルは空きスペースを利用して、コンサートを開き地方再生の原動力になっている。 また、東京で失われつつあるコミュニケションの場づくりを積極的に行い地域のコミュニティデザインを形成している。 "アイドル"という言葉をキーワードに様々な分野に活躍されている社会学者の濱野智史をお招きし、 若き建築家の松島潤平君と坂東幸輔君が挑みます。 今回は、特別に濱野さん率いるPIPのアイドルが参加してライブショウを見せてくれます。 彼女らのパワーはわれわれに勇気を与えてくれるでしょう。  既成概念にとらわれすぎている現代人にとっての価値観の変遷を促すシンポジウムにしたいと企画しました。
■出席者略歴

濱野智史
1980年千葉県生まれ。2005年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。2005年より国際大学GLOCOM研究員。2006年より株式会社日本技芸リサーチャー。2011年から千葉商科大学商経学部非常勤講師。2014年よりアイドルグループ「Platonics Idol Platform」プロデューサー。

松島潤平
1979年長野県生まれ。2005年 東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。 2005-11年隈研吾建築都市設計事務所勤務。2011年松島潤平建築設計事務所設立。2012年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻博士課程在籍。

坂東幸輔
1979年徳島県生まれ。2002年東京藝術大学美術学部建築科卒業。2002-04年スキーマ建築計画。2008年ハーバード大学大学院デザインスクール修了。2009年ティーハウス建築設計事務所。2010年坂東幸輔建築設計事務所設立、バスアーキテクツ設立。2010年-13年東京藝術大学美術学部建築科教育研究助手。2013年aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所。現在、坂東幸輔建築設計事務所主宰、バスアーキテクツ主宰。

■日時:2015年1月31日(土) 15:00〜18:00
■場所:新宿NSビル16階インテリアホール
■主催:ミサワホーム株式会社 Aプロジェクト室
■企画・監修:大島滋(Aプロジェクト室)
リーフレット
 
「アイドルと建築」 ―― どちらが希望を与えることができるか
大島滋
Aプロジェクト
Aプロの大島です。今日は、ミサワホームAプロジェクトのシンポジウムにお越しいただきありがとうございます。さて、今回は「アイドルと建築」というテーマです。
アイドルと建築、一見何の脈絡もないように思われますが、私にとっては実に興味深いテーマです。というのも、昨年の夏に釜石から石巻まで被災地をまわってきましたが、もうじき丸4年を経過するにもかかわらず、まだまだ数多くの被災者の方々が仮設住宅から出られずにいます。また、新しい住まいを建てられた方もローンに追われ、慣れない場所での暮らしにストレスを感じている方々を目の当たりにしてきました。われわれ住宅に携わるものにとって、まだまだ被災地は目をそらすことのできない問題だと痛感したのです。
そうした状況の中で被災地の方々を元気付けようと、福島の中高生がご当地アイドルグループを結成し、被災地を訪れ、ライブを行い、その収入を震災孤児たちに寄付しているというニュースを知って衝撃を受けたのです。そのアイドルの曲の歌詞がまた良いんです。

♪届かない夢なんて夢じゃない、諦めちゃだめさ♪(ベイビーティアラ『夢iroまかろん。』)

少しずつアイドルに興味を持ち始めると、各地方都市にはいろいろなご当地アイドルグループが存在しているのを知ったのです。みな地域に根ざして活動し、地域の人たちに支持され、地域に入り込んでいるのです。アイドルなんてとバカにしていたのが、とてもバカになんてできないなと思うようになりました。
一方で建築に目をやると、世界でも注目を集めている伊東豊雄さんや妹島和世さんなど著名な建築家が、被災地の憩いの場としての「みんなの家」という集会所を各地に建てられていましたが、ほとんどの建物が活用されているようには見えませんでした。また、復興住宅の目玉として計画されていた、伊東さんや平田晃久さんのすばらしい建物が、予算が合わないという理由でハウスメーカーに取って代わられていました。確かに予算は大事なことですが、建築はただ建てればいいというものではないと思います。その地域に根ざした、記憶に残る、心に刻まれるような建物をつくることは、その地域の人たちの共通の思い出となり、その建物を見るだけでほっとしたり、元気付けられたり、生きる力になり得るものだと思います。
旅行を終えて考えさせられたのは、アイドルと建築と、どちらがより多くの希望を与えることができるのか、ということでした。今日はどのようなシンポジウムになるかわかりません。アイドルに詳しい社会学者の濱野智史さん、それに対する建築家として、松島潤平さんと坂東幸輔さんをお招きしました。アイドルという言葉をキーワードに、これからの新しい時代の生き方や考え方のヒントが見いだせればと思っています。
神山町 ―― 地方創生のロールモデル
坂東
徳島県の神山町と牟岐町で取り組んでいる《空き家再生まちづくり》の事例から話します。神山町は徳島市内から車で40分、飛行機で東京からドア・ツー・ドアで2-3時間の立地の良い里山です。人口は約6,000人、高齢化率は46%、主要な産業は農業で、すだちや梅が有名です。そんな何の変哲もない日本の田舎に突然異変がおこりました。2011年に、転入者よりも転出者の数が上回り、社会動態が増になりました。これは一大事だということで、それ以降地方創生のロールモデルとしてメディアでとり上げられるようになりました。移住者は30代の若いのクリエイターが多く、東京に拠点をもつITベンチャーがサテライトオフィスをかまえることも増えおり、新しい住まい方・働き方が注目されています。もともとアーティスト・イン・レジデンスなど、アートで場の価値を上げていく取り組みがあり、そこにたまたまノートパソコンで川に足をつけながら、またハンモックに揺られながら仕事をするというような仕事環境にあこがれるITベンシャーを呼び寄せるようになりました。そのベースとなったのがブロードバンド環境の充実です。徳島にはもともと地元のテレビのチャンネルが3つしかないのですが大阪や神戸からもらい電波をしていたため、見られるチャンネル数が最も多い地域でした。地デジ化を期に電波塔を建ててしまうと水戸黄門を見られなくなるということで、新たにテレビ用のケーブルを設置したため、同時に県全域に高速ブロードバンドを設置することができました。空いている高速道路のようなものなので、田舎にいながら理論値の毎秒100MBが出るような高速インターネット環境が実現しました。
もうひとつはNPOの活動です。理事長の大南信也さんが、若者たちが入ってきて創作意欲をかき立てるような場づくりをしていました。その中で3つのキーワードがあります。「創造的過疎」と「やったらええんちゃう」と「ヒトノミクス」です。「創造的過疎」は、放っておいたらがくんと人口が減ってしまうところを、世代の分布を保ちながら健全に人口が過疎していこうということ。「やったらええんちゃう」は、来た若者が何でもできるように、というもので、Nikeのjust do itの徳島弁版です。人と人のつながりを意味する駄洒落「ヒトノミクス」は、B級グルメやゆるキャラといった新しいコンテンツをつくるまちづくりではなく、面白い人が集まる場をつくるまちづくりをしているということです。


神山町における実践 ―― 空き家再生プロジェクト《空家町屋》
 
現在神山町には30代の若者を中心に移住者が増えています。その中で、私が東京を拠点として活動する建築家とバスアーキテクツというユニットを組んで取り組んでいるのが空き家再生プロジェクト《空家町屋》です。これまで神山町の中で8戸の建物を改修・新築してきました。2010年から毎年ワークショップをおこなっています。2010年には古い築80年の空き家を学生と地元の大工さんとで改修して、《ブルーベアオフィス神山》をつくりました。最初はクリエイターの展示スペースとしてつくりましたが、サテライトオフィスブームにともなって、今は東京のIT企業「ソノリテ」が地元の若者を雇用し、コールセンターとしてつかっています。
サテライトオフィスブームのおかげで、今では空き家が足りなくなるという状況が出てきています。そのため、今度は廃工場を利用してコワーキングスペース《神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス》をつくりました。空き家を改修する際には、中に残るゴミを取り除く作業が必要になります。いつも古い家具を捨てているのを見てもったいないと思っていたので、捨てられる家具を再生しながらオフィス家具をつくる学生ワークショップ行ないました。もともと縫製工場だった大空間を、一部ガラスパーティションで区画し薪ストーブで暖房しています。縫製工場で使われていた反物を置く棚を組み立て直し大きな机をつくりました。








《えんがわオフィス》 ―― サテライトオフィスからひろがるまちづくり
 
これまでの作品はNPO法人グリーンバレーとの仕事ですが、だんだん私企業の参入も増えてきました。私企業が築90年くらいの一軒家を買いとって、それを改修してほしいという依頼をうけて完成したのが《えんがわオフィス》です。これは「プラットイーズ」という会社のオフィスですが、その会社のコンセプトが「オープン・アンド・シームレス」というものでした。そこから外に対してオープンにガラス張りにして、えんがわを配置し地域の人とシームレスにつながる、というコンセプトで建物を設計しました。若者たちが移住してくると中で何をやっているかわからないという状態が生まれますが、ガラス張りにすることで中の様子が夜でも良くわかるという環境をつくりました。縁側を介して地元の人が野菜をくれたり、阿波踊りの会場になったり。私企業のオフィスの敷地なのに、すごく公共的な使われ方をしています。
同時に敷地内にあった蔵も改修しました。壁一面焼けてしまっていたところをカーテンウォールに改修しました。おかげでかなり眺めのいいオフィスになりました。当初は20人の社員が働くスペースでしたが、もっと増やしたいということでアーカイブ棟を増築しました。次世代の映像規格をこの場所で実験していきたいという会社なので、建物の2階部分に映像アーカイブを残すためにサーバー棟と保管庫があって、下がオフィスになっています。このオフィスができたことで、40人ほど地元の人を雇用する予定だそうです。先ほど紹介した《神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス》は、Yahoo!ジャパンの合宿所としても使われる場所になりました。どんどん人が来るようになり宿泊施設が不足してきて、手前にある古民家を改修して宿泊施設にすることになりました。《WEEK Kamiyama》という名前で呼ばれていて、新築の宿泊棟をつくって古民家をレストランに改修しゲストハウスとして運営していく予定です。地元の丸太をつかい、川側をガラス張りにして、眺望の良い風呂もあります。視察者や合宿で来る人、神山で田舎暮らしを体験したい人をターゲットにした宿です。




地方創生に建築ができること
 
いくつか建物を紹介しましたが、建物をつくるためにまず地元でワークショップをやるということを我々は大切にしています。今特に注目しているのが、「寄井座」という地元の天井広告のある劇場です。最初は劇場として使われていましたが、その後映画館になり、縫製工場に転用され、10年くらい空き家になっていました。そこをグリーンバレーが天井を取り払って空間を再生しました。しかし建物の劣化が進み、耐震の問題や消防の問題があり、営業再開することは難しい状態です。地方にはこうした空き劇場が残っているので、今後何かに活用できないかと考えています。
その「寄井座」を対象として、2011年に劇場を中心とした商店街の再生というワークショップをやりました。東京から学生を連れてきて建物を実測し、再生のアイデアを考えてもらいました。面白かったのは「劇場商店街」という提案で、寄井座を劇場として再生させながら、商店街に散らばる空き家も劇場をサポートする機能として、商店街全体として劇場を運営していきましょうというアイデアでした。普段大工さんが住む家は、劇があるときは大道具担当として活躍したり、家具デザイナーが小道具を担当するという提案でした。
実はこのアイデアを見た《えんがわオフィス》の会長さんが大工大道具の家と書かれた家を購入してくださって、《えんがわオフィス》の仕事をくださいました。神山はすごく不思議な場所で、これまで大南さんが場づくりをしてきたということがあるので、若者たちの妄想がいつのまにか実現してしまうような、不思議な魅力のある街です。
そうして《えんがわオフィス》が隣にできたことで、えんがわに座りながら観ることができる劇場空間をつくって、そのステージの下から頬杖を出して建物も構造補強しましょうという提案を現在しているところです。
こうした活動が最近注目され、金沢21世紀美術館の「3.11以後の建築展」で展示することになりました。私たちの展示はロードムービーとこれまで改修した8戸に建物の3Dプリンターでつくった模型です。地方創生に建築ができることとして『日経アーキテクチュア』の表紙にして頂いたり、建てない建築家とつなぎ直す未来の特集で『美術手帖』にも掲載されました。
牟岐町《出羽島プロジェクト》
 
日本の総住戸数は6280万戸ありますが、そのうち空家は820万戸、13.5%です。7戸に1戸は空家という状態です。単純に15人に一人は空家を所有している状況が、30年後には空家率は43%になります。つまり、自分の家の隣が空家ということが普通の状態が30年後には生まれてしまう。2000年以前はスクラップアンドビルドの時代でした。2000年代の前半にリノベーションが流行りだして、建物を壊さずに躯体を活かして中身を変えていきましょうという動きがでてきました。2010年代前半には山崎亮さんを中心とするコミュニティデザイン、建物を建てない時代が来ました。2010年代後半、とはいえ建物を建てなくても建物が余ってしまう時代なので、そういった空家を何かに使えないかということで、地域定住や多拠点居住に使っていくという提案を、今後していきたいと思っています。
徳島県牟岐町に出羽島という島があります。そこには人口がたった70人しかいません。そのうち子供は0人。移住者の人が今度赤ちゃんを産むそうなので、0歳児が一人加り一気に平均年齢が下がる、そういう島です。総住戸数が約180戸で、2/3が空家になっています。インターネットはありますが、ケーブルは通っておらず無線なので他の徳島の地域に比べて弱い。日本の未来を先取りしているような事例です。となりどころか2/3が空家で、放っておいたら10年後には人がいなくなってしまう島で、そこを再生する活動をしています。
立地は牟岐町から船で15分ほどの漁業を中心とした集落です。特徴的なのは、島の中に車が一台もないことです。夜になるとエンジン音が聞こえません。そのため、建物を解体したり改築する際にかなりの労力を要するので、明治・大正・昭和初期の古民家がそのまま残っています。特徴的なのは蔀戸とベンチが閉じることで台風避けの雨戸になるミセ造りです。伝統的建造物群保存地区として、助成金を得ながら建物を改修していく準備をしているところなのですが、そこにソフトがないということで、大学生を連れてきて何か提案してほしいという依頼をいただきました。町が買い取った空き家を改修し重伝建のお手本をまず整備して、かつその中身を何かに使いたい。それを学生と一緒に考えるワークショップをいまおこなっているところです。去年ハーバード大学の学生が町の高校生にリベラルアーツを教えるサマースクールをやるということで、ハーバード大学のスーパー大学生が町に来たのですが、そこで運営に関わった地元の大学生が、自分たちも何かやりたいと参加してくれています。彼らといっしょに島を回りアイデアを考えて提案をするワークショップです。来年には空き家を改修する予定になっています。
若い女性のいない町
 
地元の人に話を聞いてかなりショッキングだったのが、牟岐町には特に若い女性がいないんですね。地域に若い人を呼び込むためにどういう方法があるか。神山町には若い女性が多いのですが、その理由はいったい何なのか。
まず神山で成功しているのは「アート」です。また、ワークショップを通して確信をもっているのは、今の若い人たちは「社会貢献」ができる場を求めています。もうひとつは「教育」です。牟岐町ではハーバード大学の学生がきたことで教育のブランド化ができている。これまでは多くの若者で老人を支えていましたが、これからは多くの老人で一人の子供を支えるということができるので、教育が重要になってくるのではないか。
今日のテーマでもあるアイドルが、社会貢献や教育につながるかどうか、僕もいま考えているところです。出羽島のプロジェクトはボランティアスタッフを募集しているので、twitterやfacebookでご連絡いただければ参加いただけます。
アイドルと地方創生
 
空き家をアイドルのライブ会場にしてしまいましょうというのは、すごくいいアイデアだと思うんですけど、なかなか簡単ではない。先ほども神山町の事例でいいましたけど、B級グルメやゆるキャラと同じように、そこにコンテンツとしてアイドルが入ってきても、すぐに飽きられてしまうのではないかという恐れを感じます。そこで、地方にたいしてアイドルができることを3つに分類してみました。

1. ロックフェス型:フジロックのように全国からファンが集まる。
2. Negicco型:ローカルアイドルの代表作で、地方で12年くらい頑張ってメジャーなアイドルになる。
3. NGT48型:AKBが新潟にまた拠点をつくります。東京から地方へというコンセプト。

ロックフェス型は一過性の観光客はくると思いますが、これからのまちづくりは場の価値を上げて新しい人を呼び込んでいく必要があるのでちょっと難しい。Negicco型は、Negicco自体は最終的に売れて東京へ行ってしまうんですけど、そういうアイドルを生んだというブランド化はできるので、アイドルを育む地域としてやっていけるかもしれません。
そしてNGT48型です。よく言われるのが、東京から巨大資本が地方に来てNegiccoのような地方性をぶっつぶすんじゃないかという話です。しかし一方で、新潟には消費者であるアイドルオタクがそもそも少ないので、あらたな市場開拓につながるのではないかという話もあります。
東京から出て鳥取に劇場をかまえて「鳥の劇場」という劇団をやっている中島諒人さんという方にお会いしたんですが、その方が面白い話をしていました。東京には演劇オタクがいっぱいいるのでお客さんがたくさん来るけど、地方にいくと演劇を観るオタク(=市場)がいないので、続けることがなかなか難しかったそうです。そこで地域に開くということを始めたそうです。そうすると、中島さんの演劇がより一般の人にもわかるように進化しました。かつ参加型にできる。
NGT48も東京のビジネスをそのまま持ち込むと文化の均質化が起きてしまいますが、市民やこれまでアイドルを好きじゃなかった人に広げていくことができれば、地域性を取り込んだ活動ができるんじゃないかと可能性を感じているところです。なので、今は新潟がアツいんじゃないかというのが結論です。どうもありがとうございました。
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