イベントレポート
Aプロジェクトシンポジウム
「テクトニクスの現在形ーー新しい建築の風」
イベントレポートー【1】
■講座趣旨:

いま、時代が大きく変わろうとしています。人口が減少し、少子高齢化が進み、AIやVR,そして自動運転など、技術革新が起こりつつあります。われわれを取り巻く住まいの環境も空き家が800万戸を越え、すでに新しい住宅を建てなくてもよい時代になりつつあります。
こうした時代にわれわれはどのような住まい作りを目指すのか。
今回Aプロジェクトでは若き3人の建築家にフォーカスをあてました。いつの時代も時代を変えるのは若者の知恵と行動です。新しい住まい作りを実践している若き建築家たちの会話は、明日の住まいを考える上で必ずやヒントになるに違いありません。
3人の会話がとても楽しみです。

ミサワホーム株式会社
Aプロジェクト室 室長
大島 滋




■日時:2018年2月26日(月)19:00〜21:00
■ゲスト:中川エリカ×稲垣淳哉×山道拓人
■会場:新宿NSビル16階インテリアホール
■主催:ミサワホーム株式会社 Aプロジェクト室
リーフレット
 
■登壇者紹介

中川エリカ
1983年東京都生まれ。中川エリカ建築設計事務所代表、東京藝術大学、法政大学、芝浦工業大学、日本女子大学非常勤講師。2005年横浜国立大学建設学科建築学コース卒業。2007年東京藝術大学大学院美術研究科建築設計専攻修了。2007年~2014年オンデザイン勤務。2014年~2016年横浜国立大学大学院(Y-GSA)設計助手。主な作品に「ヨコハマアパートメント*」(2011年度JIA新人賞、第15回ヴェネチアビエンナーレ国際建築展 国別部門特別表彰)「コーポラティブガーデン*」「ライゾマティクス新オフィス移転計画」「桃山ハウス」(住宅建築賞2017金賞)など。*は、西田司/オンデザインと共同設計。

稲垣淳哉
建築家。Eureka共同主宰、早稲田大学芸術学校准教授。1980年愛知県生まれ。2006年 早稲田大学大学院修士課程修了、 2007〜2009年 早稲田大学建築学科助手(古谷誠章研究室)。 2009年 Eureka 共同主宰。2015年 法政大学 兼任講師、2017年 早稲田大学芸術学校 准教授 就任。主な作品に「Dragon Court Village」「Around the Corner Grain」「Ono-Sake Warehouse」「A House in the house tree」「感泣亭」「N獣医の家」「Blanks」。主な受賞に、2014年The Architectural Review AR HOUSE Awards 2014 Highily Commended <英国>、2014年日本建築学会作品選集新人賞、2014年日本建築家協会 JIA東海住宅建築賞2014大賞、2014年中部建築賞奨励賞、2016年 日本建築学会作品選集新人賞、2017年度グッドデザイン賞グッドデザイン・ベスト100、2017年東京建築士会住宅建築賞2017。

山道拓人
1986 東京都生まれ
2009 東京工業大学工学部建築学科卒業 塚本由晴研究室
2011 同大学大学院 理工学研究科建築学専攻 塚本由晴研究室 修士課程修了
2011-同大学 塚本由晴研究室 博士課程
2012 Alejandro Aravena Architects/ELEMENTAL( 南米 / チリ )
2012-2013 Tsukuruba Inc. チーフアーキテクト
2013 株式会社ツバメアーキテクツ設立
2013-2014 横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA 非常勤教員
2015- 東京理科大学 非常勤講師
2017 関東学院大学 非常勤講師
2018- 法政大学 非常勤講師
大島滋(以降、大島)
本日はお越しいただきましてありがとうございます。本日のテーマは「テクトニクスの現在形」です。テクトニクスという聞きなれない言葉がタイトルになっておりますが、この言葉は我々、建築に携わる者にとっては、重要なキーワードであると考えています。なぜこの言葉を選んだかということですが、今の時代は、以前と比べて、さまざまな分野で多くの職能が求められています。それと同じように建築でもさまざまな職能が求められるようになってきました。建築の素であるハードやソフトがどのように振舞われているか、二つの形の変化やその関係性などについて探ってみようというのが、シンポジウムの目的です。ハード面では構造や熱や光の環境、素材などさまざまな新しいあり方や考え方が生まれています。またソフト面では空間の使い方や、家族のあり方、またシェアやコワーキング、既存の建築を拡大解釈するような空間活用も一般化されてきています。ただ建物を建てれば良い時代から、まちづくりやその仕掛け方にまで及ぶ提案が求められています。こうした時代の変化に対して、建築はどう対処しているでしょうか。少人数ながらもチームで取り組んでいる今回のゲストは、チームでどのように思考し、ものづくりに向き買っているか、組織のあり方やコミュニケーション、業務の進め方に至るまでお話しいただきたいと思っています。
山道拓人(以降、山道)
僕は今日、モデレーターなのですが、議論の導入として、自分のプロジェクトを紹介しつつ、お二人にバトンを渡して、議論を展開したいと思います。ツバメアーキテクツは7人で働いています。デザインをする「デザイン部門」と、リサーチや枠組みづくりや仕込み段階から業務を行う「ラボ部門」と2部門を行ったり来たりしながら、プロジェクトを展開しています。デザイン業務とラボ業務は、3:1くらいの配分で仕事をしています。
これからお話しする1つめのプロジェクトを通して、今日の議論の軸を設定したいと思います。埼玉の八潮市の保育園のプロジェクト「ツルガソネ保育所・特養通り抜けプロジェクト」です。

俯瞰図 ©Tsubame architect

隣にあるのは大きな特別養護老人ホームで、もともとはそこで働く人の子どもを預かる保育室が建物内にあったのですが、空き家になっていた隣の土地を購入して、保育園をつくろうというのがプロジェクトの始まりです。よく周りを見渡すとフェンス越しに高校、両隣は住宅、畑や資材置き場に囲まれている敷地で、住人と高校生、老人という3世代がいるのに交流が起き得ないことに違和感を覚えました。それが不自然であると特養の運営団体も議論をし、それを組み替えていくことになりました。特養の入口側にバスケットコートを設置し、高校生や子どもたちが入って来るための抜け道もデザインして、通り抜けプロジェクトという名前にしています。保育園の敷地と特養の敷地境界に立っていたコンクリートブロックのあたりは北側なので、暗くて鬱蒼としていました。北側に平屋の保育園を建てるために、フェンスや植栽などの余計なものは取っ払って、スロープで繋ぐと、隙間のスペースが園児にとっては校庭のようになり、子どもにとって大きな広場になりました。デッキとスロープを通して老人が遊びに来たり、子どもが走ったりしています。バスケットコートには放課後によく近所の高校生が来ていて、バスケットボールの音や彼らの声が施設内にも届きます。特養にありがちな高いフェンスを撤去して、バスケットコートに向けて窓を開けることで、体はそんなに動かないけれどちょっと外には出られる老人たちが声をかけたり、車椅子で一緒にちょっと遊んだりという奇跡的な風景が生まれました。また隣地の畑との間のフェンスを撤去して小道をつくり、今まで使われていなかった畑を使った「畑作業」を特養のメニューに組み込めます。保育園のエントランスには看板をあえてつけずに街に紛れ込むようなファサードにしました。門から入ったところに、ベンチと屋外コンセントと自動販売機とゴミ箱を設置したら、たくさん子どもがやって来ました。これだけオープンにしているので、万が一のためにAEDを置いたり、機械警備を入れています。手前道路から特養に向けて微地形があるのでそれをなぞるようにだんだん窓が小さくなったり、それに伴って小上がりやベンチがあったりします。高さが違う窓からは、背が大きくなって来るとそれまで見えなかった風景が見えるようになります。保育園の中を抜けると特養までまっすぐ繋がっています。

保育園 俯瞰写真 photo by Kenta Hasegawa

特養エントランス バスケットコート 俯瞰写真 photo by Kenta Hasegawa

これはフランス人権宣言から2018年までの日本の福祉の法律の変遷を追いかけていくと福祉施設は戦前までは困った人たちがひとまとめになっていてお寺や孤児院で引き受けたり、という時代から、戦後になって、戦災負傷者のための法律ができたり、60年代くらいからは法制度が確立して行きました。身体に病気や障害を持っている人に向けたベストソリューションとして法律が発達し、それに合わせて建築類型も発達していきました。
その結果、今は建物の種類がそこにいる人の種類を決めすぎている時代になっているように感じます。今日では、国全体で地域共生というコンセプトが立ち上がり、バラバラになったものをまた繋ぐ枠組みができはじめています。建築家としては準備が整うのを持つのでは遅いので、何と何をつなぎ合わせたら人間らしい暮らしができるかということで、この保育園のプロジェクトを位置付けられます。
今日のタイトルであるテクトニクスは、建築の成り立ち、構築の方法、どのように組み上げるか、ということで議論の蓄積がありますが、例えば現在の日本には、ある一定レベルの建設業があります。さきほど述べたように病気や障害に対しての個別の想定はかなり明確化されていて、その中での計画学は既にたくさんの人が研究していて、施設も制度は整っています。ただ、今、想定全体を見て組み上げ直す必要があると思っています。乱暴な言い方をすると、病院に入院すると息が詰まりそうな建築になっているなんていう言い方もできてしまうかもしれません。そこで僕らは、今回のタイトルのテクトニクスの頭にソーシャルとつけた、「ソーシャル・テクトニクス」と呼んでいます。それまでのモノどうしに加えて、人や分割された敷地を編み直して、もう一度人間らしい建築を取り戻すということで、ソフト設計や編集とはちょっと違っていて、新しい想定から必要になって来る空間構成、ディテール、建物のつくり方を考えましょうというコンセプトです。

ダイアグラム ©Tsubame architects

図にすると、建築を中心にタイム、ピープル、テリトリー、リソースといった建物を成立させる条件を編み直そうというものです。バランスを良くするのとはと違っていて、例えば今の保育園のプロジェクトに当てはめるとテリトリーをとても大きくするとこれまでにない均衡状態、つまり崩れたバランスがおかしい=可笑しい(おもしろい)状況になります。個人住宅の場合も、例えば100人が使う想定をすると、このダイヤグラムのピープルの変数を引き伸ばすと新しい均衡状態になり、その場合に必要なデザインは何だろうかと。または8人くらいでキッチンを共有する場合も新しい想定が出て来ます。これは落語で言うところの、緊張と緩和理論といって、安定した社会状況があるからこそ、少し歪ませるとおもしろくなるのです。

ダイアグラム ©Tsubame architects

最初の話に戻ると、デザインとラボという僕らなりの働き方は、住宅で使ったディテールを保育園で使ったり、商業施設で使ったディテールを特養に戻すといった、繰り返し同じディテールを使う設計の手つきであり、ビルディングタイプはあまり関係ないと言えます。けれども、時代が要請するものはどんどん変化するので、調べながら設計しています。

そして、なぜ、お二人を今回のゲストに招いたかというと、エウレカはGA HOUSES 156に掲載された「Eagle Woods House」について、「森の臨床的テクトニクス」という文章を書いていて、抜粋すると「(屋根の)全体性をもとに、ヴォリューム構成によって部位に応じた独立した調整を許し、環境に呼応して適材適所に素材や構造形式をハイブリッド、もしくは切断する、複眼的な環境構築(を行なった。)」、つまり一つの建物なのだけれど、周りに細かく反応していって、複雑なものをつくるということかなと思っています。反対に中川エリカさんは「バラバラな動的平衡」ということをGallery IHAでのレクチャーでおっしゃっています。「都市におけるコモンズの再構築(というお題をいただいて、)バラバラさが持つ開放感や快楽を表す建築、バラバラで開放的な集合をつくり、目に見えないコモンズに構造を与えるような建築(について語りたいと思った。)」ということですが、例えば「桃山ハウス」だと、バラバラなインテリアが大屋根でズバッと周りを囲むとか、お二人とも非常にたくさんのものを扱いながら、全体を構築したり、まとめ上げる方法が違うのではないかと思っており、どう構築しまとめるか、テクトニクスの現在のありかをお二人の実例をベースに議論できたらいいなと思います。
まず、稲垣さんにお願いします。
企業情報 このサイトについて プライバシーポリシー